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さ魔よい50原画展招待者限定トーク前編

2013年9月7日 さ魔よい50周年記念原画展招待者限定トークショーがギャラリー・ゴーシュにて開催されました。その前編です。
企画・主催/日本アニメーション文化財団、アニドウ・フィルム 司会/小林治さん 写真提供/アニドウ・フィルム 金子由郎さん なみきたかしさん

 

小林 僕は大橋さんが一人でオープニング・エンディングを描かれた宝島って作品が大好きで、昔4℃ってスタジオに遊びに行った時、大橋さんにマンガを描いていたほうがいいよ、年とるアニメ描けなくなっちゃうからネって言われて寂しい思いをしたことがあるんですけど、それを大橋さんは全然覚えていなかったというエピソードがあります(笑)

夏のソラっていうテレビアニメの絵コンテをやった時に、そのコンテを見て大橋さんが気に入ってくれてやりたいと連絡下さったらしくって原画を描いていただいたことがあります。僕は絵コンテ演出をしてるんですけど、ちょっと宝島とかガンバの冒険を意識した鳥が飛んでいくシーンをコンテで書いたんですけどそれを見て、きっと知ってる!と思われたんじゃないかな、と思っています。それで2カットいい原画を描いていただいて、その時に若々しい原画で凄い迫力があって、大橋さん凄い若いなぁと思ったことがあります。

今日展示になってる原画はまだ見させていただいていないんですけど、大橋さんの原画にまつわる話を色々聞けたら、と思い司会を頑張らせていただきます。よろしくお願いします。

なみき では大橋学さんの登場です!

(会場拍手)

 

小林 今日はよろしくお願いします!まず始めに「さ魔よい」とは?

大橋 ベテランの人がここにいるなら逆に聞きたいな、と思ってたのは自分より先輩の人達がね、ムラがないように思えるの。例えば先輩の小田部さんなんか描いてることにムラがないように見えるのね。俺はすんごいムラがあるの。何て言うんだろうね、情熱を向けられない作品には本当に情熱が向けられないの。

小林 僕が知ってる大橋さんの話だと仕事をされる時間とされない時間があるって伺ったことがあるんですけど。休みを間に挟むって

大橋 そうそう。今回50年になりますけど、10年くらい遊んでんじゃないかなと思うんだよね。だいたい5年で山に登るって感じで、それを10回繰り返してちょうど50年ですね。

小林 大橋さん元々は東映動画ですよね。 動画から入られて原画になって、その頃はあんまり休まれなかったんですよね?

大橋 最初の15から17歳までの2年間は無我夢中で、ムラなんかないですね。

小林 それって009?

大橋 風のフジ丸だけ動画を1年やって、16歳の時レインボー戦隊ロビンですね。最初動画やってたんですけど、木村さんから(絵コンテを)ポーンと投げて渡されて「これ原画描いてみな。」って言われてね。それ前兆があって、動画の時自分の机が汚いのは有名なんですけど、原画みたいな線で描いた書き損じの下書きをその辺に撒いて帰るんです。そうすると自分が帰ったあと誰もが見るでしょ?

小林 おっ?こいついい線描くな?みたいな。

大橋 そうそう。これ原画みたいだな、って。わざとじゃないんですけどね(笑)偶然にそれをやったんですよね。

小林 巧妙ですね!(笑)

大橋 そうすると動画が原画みたいだな、ってことで原画やってみな、って。

小林 それは木村さんが?

大橋 そう木村さんがいきなり10カット位持って来て。009の中のサングラスかけたようなキャラクターの・・・鼻がこうへのへのもへじみたいに口がこう~なってるのを壁伝いにパーンパーンパーンって光線をバーって出す、そんなアクションのシーンを最初にやりました。

小林 それは口パクではないんですね?

大橋 口パクではないです、いきなりアクションです。

小林 それは木村さんがチェックされるんですか?

大橋 もちろんしますよ。最初から直さなかった。修正なしです。シートのつけ方も知らなかったですよ。見よう見まねです。

小林 え、知らなかったんですか?

大橋 早すぎたり遅すぎたりもせずにわりと上手くいったんですよ。

小林 パラパラした時もいい感じだったんですか?

大橋 うん~あんまり覚えてないけどね。いい感じだったと思う。

小林 僕の友人の森本晃司さんもめくるのが上手くって、「治ちゃん、これ3コマのめくり方~2コマ~」って。アニメーターの人って凄いなぁって思いましたね。

大橋 そうだね。風のフジ丸とかも原画枚数も動画枚数も多いんでね、パラパラめくれるのは当たり前の原画が多いんで。 そうそう、小田部さんがここに居たらばいつかお返ししなきゃいけない原画を持ってるんですよね。

小林 あ、展示しましょうか?(笑)

大橋 2、3カット持ってるんですよ。大工原さんのも持ってるんです。

小林 それは何で持ってるんですか?

大橋 理由?え~っとねぇ、多分動画をやって返さなかったんだと思うの。

小林 まぁ実際原画は使われないから分からないですよね。

大橋 うん、動画だけ出したのかもしれないね。それともいったん出して抜いたのか分からないですけど。

小林 欲しかったんですかね。

大橋 そうかもしれない。いまだにパラパラ出来るように斜めにしてホチキスで留めてね、自分の原画より保存状態いいですね。自分の原画はもう全滅です。

小林 それは最初のフジ丸の時の動画ですよね。原画を割る時に動きの方も勉強になったんですか?

大橋 勉強になったというか面白かったね。最初は何でも面白かったんですよ。人も面白いし。キャラクターもアニメーターもね。楠部さんが作画監督で小田部さんがサブチーフで。楠部さんはいなかったけど小田部さんはだいたいいました。原画の人は半分ぐらい来てないの。

小林 レインボー戦隊ロビン、009の木村圭市郎さんの頃ですね。

大橋 その頃は1年に一作なんですね。だから風のフジ丸1年、レインボー戦隊ロビン1年、009に1年って感じで。1年に一作品で今とは全然違うでしょ?

小林 そのつど彼らからの影響はあったりしたんですか?

大橋 あ、東映の場合はずーっと木村さんですね。もうコンビみたいになっちゃって。だいたい何年頃だか想像出来ますかね~?三丁目の夕日の頃ですよ。

小林 木村さんは原画だと009をやられて、タイガーマスク、ピュンピュン丸ですけど、なぜ木村さんと一緒にやられたんですかね。

大橋 一班原画10人、動画10人くらいの班があってね。班が決まるとずーっとそこのチームなの。で風のフジ丸から移行する時に、木村さんはレインボー戦隊ロビンの作画監督に抜擢されて以降ずっと作画監督なの。同時に高橋信也さんって人が同じ班だったんだけどね。

小林 高橋さんって宇宙戦艦ヤマトのキャラクターデザインやられてましたよね?

大橋 そう。一班30人位が2つに分かれてだんだん分離していくんですよね。で分離したら分離したまんまで細胞分裂みたいになっていきもう元には戻らない、っていう感じのチーム編成でね。・・・木村さんの話がいいの?

小林 ううん、木村さんとコンビみたいにされてた時は何の作品が面白かったですか?

大橋 レインボー戦隊ロビン、009、ピュンピュン丸ですかね。

小林 あ、タイガーマスクがなかった(笑)

大橋 タイガーマスクは東映辞めてからですから。

小林 あ、なるほど!(笑)レインボー戦隊ロビンと009はアクションですけどピュンピュン丸はギャグですよね。

大橋 木村さんからしてもギャグというかギャグアクションは初めてじゃないですかね?で俺はずっと木村さんの真似をしてたんですけど、ピュンピュン丸から真似をしなくなりましたね。顔をとにかく変えてました。

小林 あれキャラデザって木村さん?

大橋 そう。当時自分でキャラ表を作ってて、自分のキャラ表を机に貼って描いてましたもん。

小林 あ、僕もよくやります。

大橋 ピュンピュン丸はこれ、ってね。それでも直されないんですから不思議ですよね。

小林 魅力があったんじゃないですかね。その頃の原画って展示されてるんですか?

大橋 全然ないですねぇ・・・

小林 あるやつの話しましょうか(笑)これは東映動画の頃の話だと思うんですけど、その後マッドハウスに?

大橋 東映をやめたのが19歳の時で、

小林 さっき話されていたけど、多分彷徨うんですよね?

大橋 そう。一番彷徨ってた頃だね。

小林 その時にあしたのジョーと出会うんでしたよね?

大橋 あしたのジョーまで2年くらい待たないといけないの。その前にアパッチ野球軍、紅三四郎をやってますね、ま、生活のためにハクション大魔王とか、タツノコ系の仕事を主にやってました。アパッチ野球軍って知ってますかね?

小林 あれは高畑勲さんが構成でしたっけ?

大橋 えっとあれはもう一人の宮崎(一哉)さんですね。東映は1話の絵コンテをやった人が中心になるんですよね。

小林 アパッチ野球軍のオープニングとか描かれてますかね?

大橋 オープニングはね、森下圭介(ダンちゃん)さん。

小林 オープニング、上手ですよね!

大橋 (森下さんは)風プロダクションっていうのを東映辞めて作りまして、普通外注スタジオに委託しないんだけど例外的に風プロダクションには1話を担当とキャラクターを担当と。あそこは所沢にあるプレハブなんですけど、あそこが中心になってやってまして、俺も行って描いてたんですよね。自分も1話の半パートほどやってますけどキャラを変えたんですよね。

小林 アパッチ野球軍って再放送するとピーって。面白いアニメなんですけどちょっと言葉がデンジャラスな。裸がユニフォームですから(笑)

大橋 後ろどうですか、分かりますか?

小林 ぱっと見ると平均年齢高そうなんで(笑)あの頃の原画ってけっこうタッチが激しいっていうか東映のフジ丸は劇画調だけど、昔の東映のアニメーションってホッパとかきれいな線なんですけど、タイガーマスクにしろ、ピュンピュン丸もそんなに線は激しくはないですよね。アパッチ野球軍は(それ以上に)ザクザク描いていたようですね。大橋さんは野球はお好きだったんですか?

大橋 野球は全然駄目でした。40歳くらいになって趣味が増えて観るようにはなりましたけど、それまでは漫画だけでしたね。

小林 今のアニメーションの制作スタイルってクイックアクションレコーダーとかあるから原画の方が制作にデータを組んでもらって、すぐに動きのチェックって出来るんですけど、昔はそういうのは無かったからオンエアで観る、って感じですよね。どうでした?

大橋 やっぱり一回にワンカット上手くいけばいいと思ってるんで、だいたいは失敗ですね。

小林 どう失敗しちゃうんですかね?

大橋 タイミングですね。早すぎたり、遅すぎたり。早いつもりで遅いと恥ずかしいですよね。

小林 ああ、もたついた感じになっちゃう・・・

大橋 もうちょっと早く動いてよ、っていう。

小林 今もバリバリに描かれてますけどそういう失敗って減るものなんですか?

大橋 昔の方がね、原画を見たまんまですね。あんまり複雑なシートが裏に隠れてるっていうのはないんで、パラパラ見て一カットって感じなんで。絵を描く人にはわかると思うんだけど絵の裏側にタイムシートがあって見えない指図(氷山の裏側のような設計図のようなもの)がアニメーションの原画にはありますよね。昔ほどシンプルです。木村さんなんかはパラパラめくったのを「どうだ!」、って感じなの。「動いてるだろ?」って。昔はシートで複雑な動きを指図するのはあんまりなかったですよね。見たまんま。

小林 僕も見たまんまで描いてますから。なんつって(笑)

大橋 脱線しちゃうけど原画枚数少なくて撮影で複雑なことやって画面で面白くするっていうのが大塚康生さんだったね。俺が見た風のフジ丸ね。風のフジ丸いろんな人がやってますよね。

小林 宮崎さんもやってますからね。どの辺の展示が多いんですか今回は。

大橋 70年代からありますよ。

小林 009っぽいのがありますね。

大橋 あれ009ね。

小林 昔の髪の毛黒いヤツですかね。その手前のは何ですか?

大橋 火の鳥ですね。その隣が金の鳥。その隣は薄くて見えないけどザ★ファイヤーGメンね。

小林 あ~、ファイヤーGメンは出﨑さんが監督と作画監督されてるんですよね。

大橋 そうですね。順番通りいかなくてもいいんだけど・・・

 

小林 マッドハウスいきますか。ファイヤーGメンってマッドハウスの最初の頃ですよね。

大橋 そうだね、マッドハウスを知るにはジョーの方がいいかもね。

小林 あしたのジョーをテレビでご覧になって何か心に感じる物があってアニメに引き戻されるというお話がありましたね。

大橋 当時アニメと離れちゃってたから、あしたのジョーがなかったら戻らなかったよね、ってくらいに思えるけどね。最初の大塚さんのムーミンも入るけどね。あの頃東映辞めて川の外れというか川が見えない所の隅っこまで行っちゃってるから、ちょっと気が付いたら向こうに凄い川が流れていて、真面目にやってる人たちが居るんだよね。あまりにも自分がしらけてて、遠くに居ても見えてくるんだよね。ちゃんとやろうとする人たちが向こうにいて、ちゃんと向き合うと嫌になっちゃうんだけど。

小林 ちゃんとっていうのは本気でアニメーションに向かってるっていうのかな。

大橋 そう本気にやってる人たちが居る。自分が東映辞めたあと金田さんとか入って来るでしょ?いったん外れちゃってるから仲間外れの隅っこの方に居る感じになってるっていうかね・・・あそこから目覚めて小松原さんもそうだし、みんなちゃんとやってたんだよね。だからそういう人たちに逆に聞きたいっていう感じなの。

小林 あそこにもちゃんとやってる人が居ますよ(友永氏を指す)

大橋 そう、恥ずかしいくらいで申し訳ない。そのくらいちゃんとやってないんです。ちゃんとやったのもあるんだけど(笑)ちゃんとやってないのも多いかもしれない(笑)

小林 さっきのアルバイト感覚でちょっと作っていかなきゃ的な。

大橋 う~ん・・・作品に理由があれば一生懸命になれるの。

小林 ああ、はいはい。

大橋 ジョーはやれなかったけど、その後の国松さまのお通りだいをやってね。石神井にある線路沿いのスタジオ(虫プロの最後のスタジオ)に杉野さんと川尻さんと(シリウスの伝説)波多正美さん達がいて、そこに机を借りてやることになるんだけど、杉野さんが隣の隣で川尻さんがそばにいてね。

小林 出﨑さんは演出ですか?

大橋 出﨑さんは国松さまはあんまりタッチしてないね。杉野さんが作画監督で波多さんがチーフディレクター。

小林 国松さまは歌は覚えてるけどもうほとんど覚えてないですね。僕はちょっと若いから(笑)

大橋 あれ順序が逆だったら良かったんだよね。ジョーの後だから気が抜けたような感じの作品なの。

小林 ジョーがちょっと激しい作品だったから。

大橋 ちばてつや繋がりで企画が出来てあの作品をやったんだと思うんだけど、みんながあんまり乗ってないように見えたんでね。だけどスタジオはジョーのスタッフだし、あんだけ凄い作品をやった人たちだからってね、自分は国松さまは一生懸命やったの。

小林 ジョーのスタッフに興味があったから参加されたんですね。

大橋 結果的に興味を惹かれたってことでね。(スタジオ通いを終えて)いったんアパートに戻って来た後で出﨑さんと丸山さんがアパートまで訪ねて来てくれて、「今度虫プロがなくなっちゃうんで、マッドハウスっていうのを作るんだけど良かったら一緒にやってくれませんか?」って特に出﨑さんが熱弁をふるってくれたの。

そうしたらもう断る理由はないのでね。あのあしたのジョーの出﨑さんだから。

阿佐ヶ谷の材木屋さんの2階にマッドのスタジオは出来てて、そこに行きます、ってことになったのが22、3歳頃の話かな。

小林 それでやったのがファイヤーGメンですか?

大橋 えっとね、その前にねムービーの作品をやらなきゃいけなくって、ジャングル黒べえとかど根性ガエルとか。ほとんど虫プロの人たちがあれをやったんですから。

小林 はいはいはい。

大橋 みんな苦労したと思うけど東映の小林治さんと芝山さんとかその辺のいきさつはどっかで喋ってると思うの。虫プロとムービーの激突がそこにあって。

小林 それは!?大橋さんはどちらもされてるじゃないですか(笑)

大橋 そう。どっちも知ってるからね。

小林 変わってますよね、大橋さん(笑)

大橋 うん。複雑でしたね。杉野さんがこの辺にいて(同名の)小林治さんが(反対側)ここにいてね。姿勢正しくし(指を振りたて)演技指導するわけ。あれ、これどっか載っちゃうんだっけ?名前ピーね(笑)

小林 検閲かければ大丈夫でしょう(笑)言っちゃいましょうか。

大橋 うん、まぁ杉野さん喋る人じゃないから、みんな新人のように見えたんだね。んで「よくこういうのがあるけど(姿勢を正して手を上げて)こういうのは原画じゃないからやめてください。」みんな黙って聞いて。うんうんと頷きもせず。杉野さんたちにスゴイこと言ってるなぁ、って思ったんだけどね。

小林 アニメのイロハっていうのを教えてる感じだったんですね。

大橋 そう。だから東映と虫プロはカラーが全然違うってのがはっきり分かるから。それでも一年から一年半は合体してやったんですよね。そこからジャングル黒べえになり。エースのテレビシリーズも入ってると思う。樺島さんと杉野さんが共同作監ってことで。

小林 小林さんとか芝山さんって東映動画から来てるからフルアニメの人たちだと思うんですけど、ど根性ガエルって上手い方が描くリミテッドアニメみたいな。要するに中抜きの動きをリピートとかでテレビで効率的に動かすみたいな。

大橋さんがやられた宝島のオープニングのジムの走るシーンが僕凄く好きなんですけど、あれはけっこう芝山さんの影響かな、って思ったりするんですけど。

大橋 う~ん、参考にしただけで影響は受けてないの。

小林 あのリピートに違うリピートを混ぜるってそれだけですか?

大橋 うん、走ってる間にワンアクション違うポーズを入れるっていうのを宝島の横走りでやりましたけどその程度。

小林 あ、その程度ですか(笑)

大橋 ちょっと違う1枚入れると面白いんだよね、って言ったんだよね。アクションが面白くなるってね。

小林 確かに面白いですよね。

大橋 たった1回のために1枚別の足を入れると。

 

小林 ちょっとお聞きしたいのは原画を描く時にどういうこと考えて描かれてるのかなぁ?っていうのをお聞きしたくて。

大橋 作品によって違うけどね。

小林 僕が聞きたいことが3つあるんですけど、原画を描く時に心がけていることはなんですか?一番大事にされてることって。

大橋 そうだね~、困難な場合はリングに上がるような感覚ですよ。そういう作品は瞑想しないと描けないです。

小林 リングに上がるって勇気いりますよね。

大橋 そんな感じ。リングに上がればヨシっ!ってなるでしょ。自分でヨシっ!が言えないと(リングに)行けないわけだから。それまでブルブル震えてる感じって聞いたことあるんですけど、俺の場合は逆でね、寝るんです。

小林 (笑)

大橋 瞑想状態にしてなるべく机のそばで寝るんです。

小林 ああなるほど!降りて来る感じですね。

大橋 トレス台のそばでね、座椅子を平らにしてね、カセットテープの半分の約45分瞑想するの。で、たまに寝ちゃうんですけど。ちょっと夢うつつの状態になってヨシ!って言える時が来るんですよね。そうしたらそのままムクっと起きて描き出せばいいの。

そうすると凄くラクにね、すっと入れるの。いつもそれは出来ないんだけど、何時に取りに来るよー!ってのがあるともうそんなこと言ってらんないんでやりますけど。でもだいたいは自分のベストな状態でやろうかな、ってのはありますね。

 

小林 その2です。原画を描くことの楽しさっていうのは?

大橋 楽しさはねー・・・作品によって違いますけど金の鳥は楽しかったねぇ。

小林 ああ~。金の鳥はキャラデザ大橋さんですよね。

大橋 楽しいと終わっちゃ困るな、ってのはありますね。

小林 それはお話が楽しいとか描いてて楽しいとかスタッフが仲良しとか・・・

大橋 描いてて楽しいの。スタッフも仲良しだけど、監督もまたいいし、平田敏夫(ポン)さんね。途中でこんな感じにしたいんだけど、って言うでしょ。そうすると第一声が「いいねぇ~!」って言う人なんだよね。今時いないでしょ?(小林さんにタッチしながら)カントクさん(笑)

小林 (笑)褒めるってことですよね?

大橋 相手が言ったことについて「いいねぇ~!」って。

小林 提案に対して受け入れてくれるってことですよね?

大橋 それいいねぇ~!使いましょうって。

小林 いや、俺受け入れますよ(笑)

大橋 ああほんと(笑)良くなかったら困るけどね。

小林 自分がいいと思わなかったらそれはちゃんと説明して、なんで違うかって言うようには。

大橋 あの頃新人だった福島(敦子)さんも「これどうかしら~?」ってな感じでおそるおそる聞くけど、やっぱり受け入れてくれたんだよね。俺なんかにも言ってきたけどお互いに受け入れて受け入れられるっていう関係ね。

小林 平田さんは僕もちょっと知ってますけど、凄く心の広い方っていうかニコニコされてる方だから。

大橋 現場で一緒にやる監督ですね平田さんは。

小林 自分でも描いちゃうっていうか・・・?

大橋 うん、そうだね~。

小林 もともとコマーシャル関係の仕事されてた方なんでしょうかね。

大橋 ポンさんは振り返ってみると何年かに1 回変わるって言ってました。東映にいた人だからね。CM時代、サンリオ時代、マッド時代と何年かで変わるっていうことを言ってましたね。

小林 なんかこう、いろんな技法をやろうとされててこれじゃなきゃ駄目だ、っていう囚われてない方のような気がしますね。沖縄か何かのを作られてた時のことを少し知ってますけど。

大橋 人懐っこい感じの人が好きな感じのタイプですよね。

小林 あ、僕もそうですよ(笑)

大橋 うん~。そうだね。とっつきにくい監督とそうじゃない監督もいるけど・・・

小林 僕は人のアイディアを使った時はちゃんとこの人のアイディアだと言うようにはしてますけど。自分の手柄にしないようにしてるんです(笑) あともう1つ、宝島の時って大橋さん動画も自分で割ったってことですけど。

大橋 はい。動画をやるのは東映の人たちは基本だと思うよ。分けないでやってるからね。

小林 僕も宝島のオープニングもエンディングも好きですけど、なんていうのか線に味があるのが凄い好きで。昔の動画って凄くレベルが高かったと思うんですけど、僕なんががああいう線をやろうと思うと自分で動画まで割らないとクリンナップされた線はちょっとつまらなくなる、きれいになっちゃうんですよね。

大橋 そうだよねぇ。

小林 それで短いヤツは自分動画までやってわざとヨレヨレの線でギザギザにしたりするんですけど。 良い動きを作る上でも、その辺は原画と動画を分けない方が良いって思うんですけど。

大橋 やっぱり表現しきれないっていうのがあるのね。自分で動画をやると想像してる以上に原画が良くなったり、中入れると入れ方で全然違うのね。

小林 違いますよね。ツメ指示ちゃんと守ってやってくれない・・・

大橋 伝達だからね。伝達が上手くいってないとあれ~?っていうのがある。

小林 あれ?思った動きになんないなぁ?ってのはテレビシリーズやって自分で動画まで割った時はあんまりこれは違うな、ってのはないんで。動きのことだとそうなんですけど、絵が大橋さんみたいに、動画まで割っちゃうと絵の感じがイメージとそんなに変わらないんじゃないかなっていう。

大橋 あのファイヤーGメンは(指差し)あの原画がうちにある、っていうのは自分で動画やったからあるんですよね。

小林 ああなるほど。

大橋 あれ以外にも残ってるの。酔っ払いのあれね。で、原画以上に中が凄く面白く出来たの。

小林 ああ~なるほど。

大橋 動画面白いな、って俺は思ってるけどね。動画はパラパラの基本だから本当は全部出来るといいんだよね。

小林 ベテランの人たちがたくさんいるので僕が動画の話をするのはどうかと思いますが・・・でも動画は大事ですよね。

大橋 新人の人たちってどれくらいいるのかな?見たところ(会場は)ベテランが多いですね。新人の時代の話をしてもあんまり意味がないかな。

小林 いや、懐かしいんじゃないですかね(笑)ファイヤーGメンは僕何回か観たことあるんですけど出﨑さんが演出で、あのタバコ・・・火の用心でしたっけ?

大橋 そうね、火の用心の見習いのね。

小林 それは公共CM的な作品なんだけど、ご覧になった方どの位いらっしゃいますか?

大橋 5~6人?

小林 ファイヤーGメン面白いですよね。何かエピソードはありますか?あ、司会みたい俺(笑)

大橋 面白いですよ~。やっぱり時代がいいのかな。

小林 杉野さんが原画なんですよね?作画監督じゃないですよね?

大橋 監督と密ですね、この時代は。出﨑さんは俺の動画を見てますよ。動画で「面白くなったね!」なんて出﨑さんとも会話が出来てるから。スタッフは小さな村みたいな感じで、どこで誰が何をしているか分からないんじゃなくて分かっている、っていう感じね。

小林 東映動画って原画と動画の方が一緒の場所にいて、動画の流れを原画がもう一回チェックするっていうシステムだったって聞いてるんですけど。

大橋 うん、社内はそうだね。

小林 最近は動画のスタジオは動画で原画のスタジオは動画マンがスタジオにいないところもありますよね。

大橋 だんだん細分化して分からなくなってますよね。どうですか?(会場の友永氏に向け)

 

友永 テレコムもなかなか・・・昔は動画が上がると担当原画に持ってきて見てもらって横に立たせてね。それだと時間くっちゃったりね・・・そういうシステムを外していったり。そうすると今度は原画と動画がバラバラになっちゃってね。だから今は出来るだけ見てもらおう、っていうシステムに戻していますけどね。

小林 動画の人と原画の人が離れちゃうと、原画の人が育ちにくいっていうのがあるんですかねぇ?

友永 そうですねぇ。あとやっぱり今デジタルでやってるんで、デジタルでやったやつを見て下さい、って来るんで見てると、あれ?ここちょっと原画間違えたゴメン!って言ってね。 ちょっとここだけ直してくれる?それで後でまたもう一回見せてくれる?っていうそういうやりとりをやるんですよね。中を入れてみると原画でけっこう失敗してたりする事がよくあるのでね、入れてみないと分からないっていうのはあるんですよ。

大橋 今でもありますか?

友永 ありますいっぱい(笑)

大橋 (笑)俺もあります。

小林 あ、友永さんです(笑)

(会場拍手)

小林 さっきムラっ気の話をしていたんですけど、友永さんもそういうのあるんですか?頑張ってる時と、あんまりテンションが上がらないなっていう。

友永 あぁそういうのは・・・そう感じるほどデリケートじゃないもんで(笑)まぁ食わなきゃいけないんで。とにかく仕事を消化しなきゃいけないんで・・・

小林 大人だ(笑)

大橋 ああ~大人ですねぇ。

小林 金田さんと999やられてたあの頃はテレコムじゃないと思うんですけど。

友永 ああ、あの時はオープロでしたよねぇ。

小林 お!オープロ。

友永 オープロではあの時多分三班くらいありましたよ。東映班、ムービー班、日本アニメ・・・。その時は原画何人か、その下に動画何人かいて原動一斑でやったんで、東映班に限って言えば上がった動画を小松原さんなりがチェックして、教えてたっていうのは多分オープロにはそういう伝統があったと思いますよね。

大橋 そうですねぇ。小松原さん面倒見いいもんね~。

友永 そうですよね。

大橋 人が好きだよね、だいたいね。

小林 マッドハウスはどうなんですか?(アニメ監督の浜崎博嗣さんを指す)原画と動画の関係って・・・。

大橋 紹介した方がいいんじゃないですか?

小林 あ、どうぞ。自己紹介を。

浜崎 フリーの、浜崎です。

小林 あ、今は(笑)アニメの監督ですね。

大橋 そうアニメの監督。

小林 凄い上手いアニメーターの方でもあるんですよ。

浜崎 マッドハウスの話?それは立場的に客員的なニュアンスだったんで・・・むしろ昔タツノコに居た時に、さっき友永さんが仰られたとおりに、距離感をあえて近くして、原画を描いた人間が、自分の原画を動画した人間の動画をチェックというシステムはありましたね。

原画マンも動画になったのを見て自分を見直す的なとこに多分通じると思うんですけど。

小林 さっき友永さんが仰ってたちょっと原画を直すっていう。

浜崎 自分も直したかと思います。演出OK通ってるんだけど、こっそりと。たまに尺まで変えちゃいましたから。ホント反則技だらけで(笑)

友永 そこまでやると怒られちゃうんで・・。

小林 会社によって違うみたいですね。

大橋 そうだよね。

 

大橋 千春さんに聞きます?

佐藤 特にないですよ(笑)

小林 動画自分で割っちゃったりします?

佐藤 たまにやりますねぇ。自分で原画描いたやつ。

小林 動画までやるといいなぁっていうのはどの辺ですか?

佐藤 線ですよねぇ・・・うん。やはり自分の線じゃないと。線が死ぬって致命的なことだな、と思ってるんです。だからどうしてもこのカットだけは生かしたい、っていうのは自分で全部やりますね。

小林 坂道のアポロンのピアノのシーンで動画も割ったりされてるんですか?

佐藤 いやぁほとんど原画なんでね(笑)動画までやんなくてもいいかなって(笑)

小林 クリンナップ不要とかはしてないんですか?

佐藤 いや、そんな時間なかったですね。

小林 ああ~テレビアニメは時間との勝負になってきちゃうからね。

大橋 才田さんにちょっと聞きたいなぁ。

才田 才田で~す!

小林 あ!初めまして!

大橋 セロ弾きのゴーシュ全部やったの。

小林 セロ弾きのゴーシュは友永さん動画割ってるんじゃないですか?

友永 やらせてもらえなかった(笑)

才田 動画はやってないです。原画だけですけどね~。

大橋 凄いですね~。

才田 演奏の細かいトコなんかは中無しみたいなのが多いところは多いですよね。早い動きとかだと中を、テン、って訳にはいかないですからね。早いところ描いていかないと。いちいち変わっていたりするんで。

大橋 あの作品は楽しかったですか?

才田 うん~面白かったですよ。長いことかかって(笑)

大橋 凄い情熱でしたか?

才田 休み休みやってましたからね、途中テレビシリーズに戻って三千里やったり赤毛のアンやったりしながら作ってましたんで。

小林 素晴らしい作品ですよね。セロ弾きのゴーシュをご覧になってる方って・・・

大橋 ああ、多いですね。

小林 動物とかむちゃくちゃ可愛いですよね。あれは多分動画全部社内ですよね?

才田 そう、社内って言うかね、それも変則的にやったんで、凄い時間かかってますから結婚してリタイヤした女性アニメーターのところに半年後にアップ、っていうね、そういうローテーションで出せたんで凄い助かったんですよね。それがなかったらとてもね。

小林 多分線に対して千春さんが話したみたいな、ストレスっていうか変えられて悪くなっちゃうみたいなのはあんまりなかったのかな、と。

才田 線に関して言うとね、あれは動画が上がった段階で私が全部ね、チョンチョンチョンとか手を入れました。そういうのでは安心です。

小林 大橋さんは上がってきたのに手を入れるっていうのは。

大橋 宝島のオープニングの方はね、動画は半分以上やってもらってるんで大体直しましたね。凄い綺麗に上がってきちゃうんで汚しましたね。途切れててもいいのに線を繋げようとするからね。

小林 (笑)昔セルだから繋がってなくてもいいんですよね。

大橋 金の鳥の線は途切れさせて動画にしてるんですよ。動画もわざとそのまま繋げないように点々で描いてるの。動画の人も理解してくれたので、色トレスに指示してないの。色トレスにも手を加える線は無しですよ、って。

小林 はいはいはい。

大橋 もう適当にやって、ってそれで了解だったから、この説明じゃ分からないよって人もいなかったんで全然大丈夫だったの。だからチームプレイが上手くいけばいいんですよね。きちんと伝わればあとは自動的に上手くいくから。そこで違うよ?って思いながら何かやってる人がいると上手くいかないわけね。

小林 ああ、共通認識っていうか同じ物を作りたい絵が見えてるっていうか。

大橋 うん、より言わなくていいのはツーカーになるわけね。阿吽だったりとか。

小林 打ち合わせを密にしたりとかではないんですか?

大橋 もう感覚ですね、あ!分かった!って感じで(笑)仕事もそうやって出来れば楽しいですよね。

小林 そういった意味で楽しかったんですね。

大橋 ゼロからではないけど福島さんとポンさんと(石川)山子さんっていう美術監督とね、同時進行形で何かやってるんですよね。

小林 平田さんはボビーの監督さんですよね。あれはどうだったんですか?

大橋 ボビーはね、あの絵が好きだったって訳ではなくて「ボビーに首ったけ」っていうあの歌が好きだったのね。それだけの理由ですよ。

小林 ボビーは展示あるんですよね?

大橋 ああ、あります。丸山さんが言ってきたの。「ボビーに首ったけってのがあるよ?」って。「ああ!それ大好きだからやります!」って(笑)絵は何でもよかったの。

小林 描いててどうでしたか?

大橋 あれはリングに上がる挑戦です。吉田秋生さんの絵が大好き、って訳じゃないけどいったん大好きにならないといけないから。それはだから演技だね、役者になるみたいな感じだね。

あのキャラクターに惚れるということを嫌だったらやらないけど(歌が好きという)動機がちゃんとあるからね、とにかくいったん大好きになるという。

3ヶ月間ぐらいの短期間で作ってるからね。もう惚れたら一直線って感じだから。それがいつも出来ればいいんだけどね。

それが出来たのがあの辺の時代の・・・そう、10年間で10本くらい映画やってたんですよ。80年代の幻魔大戦からず~っと映画ですよ。

小林 映画やる時とテレビシリーズやる時の原画の描き方って違うんですか?

大橋 全然違うでしょう~。映画に入る、っていうコンディションというか映画に入るムードがいいですよね。これから入るぞ、って時に来月終わってる、ってもんじゃないからこれから一つに向かって入っていくわけだから。実写も同じような感じなんじゃないでしょうかね。

小林 どうなんでしょうね。

大橋 ゴールに向かって行くわけですよね。

小林 スパンが長いからそれに集中していられるのかな。

大橋 カムイが10ヶ月でしょ、10ヶ月ってのは多いんです。CLOUDも10ヶ月。金の鳥は6~7ヶ月ね。それくらい時間かけてるから、テレビをやるとしても一本一本でしょ。打ち合わせも一本一本で、1話が終わったらそれで終わりですから。それで何話か先にぽ~んと飛んでやるから。

小林 あ~そうかお話が繋がってないですよね。

大橋 脚本も知らないし観るだけの人なら宝島面白い、って観るんだろうけど。ガンバもそうなんだけど終わってからちゃんと観たのは最終回だけなんですよ。終わって、あ~やっと観れる、って。だから最終話だけはよく覚えてるんです。自分が入った時に1話2話を放送してて、これから船出だ!ってところは(後から観て)ああこんなだったの、って。だから知らないんですよ。

最近5話まで録画を観て止まってるんですけど、最終話は観なくても言えるから早く言いたいんだけど、順番通り書こうかな、って思ってるんで。

小林 面白いから観て下さい(笑)

大橋 5話凄く面白かった。軍艦島ね。

小林 ああ、いいですね!

大橋 軍艦島の回は美術から何からもう凄くて。あの後もきっと面白いのはいっぱいあるんでしょうね~。

 

招待者限定トーク後編に続く!

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